日本人になじみ深い屋根材は瓦屋根ですが、ひとくちに「瓦」といっても沢山の種類があります。
屋根材を選定する中で瓦を候補に入れている場合、それぞれの特徴を正しく理解しておくのがおすすめです。
そこで本記事では、瓦屋根の基礎知識を振り返るとともに、種類や特徴を詳しく解説します。また、利用する場合のメリットデメリット、メンテナンスの方法までわかりやすく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
瓦屋根とは?
瓦屋根とは、古くから日本家屋に使われてきた屋根材の一種です。
焼き物という特性から耐久性や防音性に優れている屋根材で、一般的に耐久性は60年程度といわれています。
耐久性に優れている瓦ですが、上記図のように形状で種類が分かれています。
- 和瓦(J形瓦)
- 平板瓦(F形瓦)
- 洋風瓦(S形瓦)
J形瓦は一般的な和瓦の形をしているタイプで、F形瓦は平たい形状をしています。
一方で、S形瓦は大きな曲線を描く形状をしており、洋風瓦特有のデザインが特徴的です。
瓦屋根にはどんな種類がある?特徴を確認してみよう!
瓦屋根には、粘土瓦に分類されるタイプとセメント瓦に分類されるタイプがあります。また、近年では軽量で丈夫な瓦として注目されている「樹脂繊維セメント瓦」というタイプもあります。
それぞれの瓦で特徴に違いがあるため、ここからは瓦の種類別の特徴を詳しく解説します。
粘土瓦に分類される瓦屋根
瓦屋根のなかでもっともポピュラーな粘土瓦とは、名称通り「粘土を焼いて作る瓦」の総称を指します。
粘土瓦は1400年以上の歴史を持つ屋根材で、寺院や城などさまざまな場所で使用されてきました。
有名どころで言えば、愛知県の西三河地方で製造される「三州瓦(さんしゅうがわら)」や島根県の石見地方で製造される「石州瓦(せきしゅうがわら)」、兵庫県の淡路地方で製造される「淡路瓦(あわじがわら)」などがあります。
これらの粘土瓦は「日本3大瓦」とも呼ばれていて、各産地の良質な粘土から製造され、かつ非常に長い歴史があることで有名です。
そんな粘土瓦ですが、実はさらに細分化すると以下の2種類に分類することができます。
- 釉薬瓦(陶器瓦)
- 無釉薬瓦(いぶし瓦)
そこでここからは、釉薬瓦と無釉瓦それぞれの特徴について解説します。
釉薬瓦(陶器瓦)
粘土瓦に分類される釉薬瓦(ゆうやくがわら)とは、瓦の表面に釉薬をコーティングして仕上げられている瓦のことを指します。
よく陶磁器の表面にツルツルしたガラス質のコーティングがされているものがありますが、まさにそのコーティング部分が釉薬になります。
そのため、釉薬瓦のことを「陶器瓦」と表現することもあります。
陶磁器をイメージしてもらうと分かりやすいですが、釉薬瓦は水を吸水率が非常に低いので経年的な劣化を受けにくい特徴があります。
一般的に釉薬瓦の耐用年数は60年とも言われており、塗装などのメンテナンスもなく綺麗な状態を長い年月維持してくれる特徴があります。
無釉薬瓦(いぶし瓦)
粘土瓦に分類される無釉薬瓦(むゆうやくがわら)とは、釉薬をコーティングせずに焼き上げた瓦のことを指します。
釉薬瓦とは違って表面がツルツルしておらず、マットな仕上がりが特徴的です。
いぶし瓦や練込瓦、窯変瓦に素焼き瓦といった瓦が無釉薬瓦に該当しますが、なかでもいぶし瓦は銀色をしていることから「いぶし銀」と呼ばれるケースもあります。
基本的な耐用年数は釉薬瓦同様に60年ほどありますが、年数とともに表面に付着する炭素膜にバラツキが出るので黒ずみがムラっぽくなるのが特徴です。
綺麗な状態を維持する釉薬瓦とは違い、経過年数とともに瓦の色合いに変化が生じるので、瓦特有の風合いを楽しむことができます。
セメント瓦
セメント瓦とは、セメントと砂が主成分で表面を塗装で着色している瓦のことを指します。
似た瓦に「モニエル瓦」や「コンクリート瓦」というものがありますが、基本的に同等品と捉えてもらって大丈夫です。
少し掘り下げて解説すると、モニエル瓦は2010年に廃業した日本モニエル(株)という外資系企業が製造しているセメント瓦です。
一方のコンクリート瓦は、セメントではなくモルタルを主成分に作られている瓦になります。
いずれも瓦表面に着色した塗装が経年劣化するため、定期的に塗り替えなどのメンテナンスをしなければならない瓦です。
耐用年数は35年前後と比較的長く、無機質の瓦なので耐火性にも優れている特徴がありますが、現在では基本的に製造されておらず入手困難な瓦です。
樹脂繊維セメント瓦
近年注目を集めている瓦の一種が、セメントに樹脂繊維を混合して作られている樹脂繊維セメント瓦です。
具体的には、スレート屋根を製造するメーカー「ケイミュー」から発売されているルーガ(ROOGA)という製品です。
樹脂繊維が混合しているため割れにくく、従来の陶器瓦の約1/2の重量と非常に軽量で耐震性に優れている特徴があります。
瓦の表面は30年経っても色あせしにくいグラッサコートがコーティングされており、色変化の少なさは陶器瓦と同等です。
瓦屋根のメリットは何?3つのポイントを確認しよう!
屋根材にはさまざまな種類がありますが、瓦屋根を採用した場合のメリットは以下のとおりです。
- 瓦特有のデザイン性
- 焼き物だから耐久性が長い
- 断熱性や遮音性に優れている
それでは各メリットの中身について詳しく解説します。
①瓦特有のデザイン性
和瓦・洋瓦問わず、瓦独特の形状や色合いは他の屋根材にはないため、デザイン性は大きなメリットになります。
たとえば陶器瓦などは色合いが非常に豊富なので、家の形状やデザインに合わせてカラーバリエーションを選択できます。
近年では太陽光の反射率が高い色合いなども用意されており、これまでの瓦のイメージを払拭するようなデザイン性となっています。
②焼き物だから耐久性が長い
瓦は他の屋根材と比較しても、非常に長い耐久性があります。
焼き物である粘土瓦の耐久性は60年近くあるので、スレート屋根のように定期的に塗り替えをする必要もありません。
屋根のように太陽光が直接当たる部位は経年劣化が非常に早いですが、焼き物の瓦は屋根材としても最高の耐久性を誇っています。
③断熱性や遮音性に優れている
瓦屋根の大きなメリットは、断熱性や遮音性に優れている点です。
通常、夏場の屋根は太陽光が降り注ぐことで高温になるため、室内の温度も急激に上昇します。
しかし、瓦屋根の場合、瓦と下地の間に空気層があるため、熱が直接室内に侵入することがありません。
要するに空気層が断熱層の役割を持つので、夏は涼しく、冬は暖かい上に結露なども防止することができるということです。
その他にも、瓦は粘土でできていることから、雨音などの騒音も軽減させてくれる効果があります。
このように瓦というのは、断熱性や遮音性に優れている屋根材と言うことです。
要確認!瓦屋根にはどんなデメリットがある?
瓦屋根にはメリットがある反面、以下のようなデメリットがあります。
- 工事費用が高い
- 軽量の屋根材より耐震性に劣る
- 重ね葺き(カバー工法)はできない
瓦屋根を採用する際には、このようなデメリットもきちんと把握した上で選択しましょう。
工事費用が高い
瓦屋根のデメリットは、他の屋根材と比較して工事費用が高いという点です。
屋根の種類 | 価格相場 |
瓦 | 10,000〜20,000円/㎡ |
金属(ガルバリウム鋼板) | 6,000〜9,000円/㎡ |
スレート(化粧スレート) | 6,000〜8,000円/㎡ |
アスファルトシングル | 5,000〜7,000円/㎡ |
ご覧のとおり、他の屋根材は㎡あたりの単価は概ね1万円以下に納まっています。
一方で、瓦屋根の場合、種類や工事内容にもよりますが、基本的には㎡あたり1万円以上の工事単価となるケースが多いです。
ただし、瓦は耐久性の長いため、メンテナンス費用を他の屋根材よりも抑えることができます。
要するに瓦というのは、トータルの年数でかかるコストは抑えられるものの、初期工事では費用が高い屋根材ということです。
軽量の屋根材より耐震性が劣る
瓦は重量のある屋根材のため、軽量の屋根材よりも耐震性が劣ります。
屋根材の種類 | 重量(㎡) |
瓦 | 50kg/㎡ |
軽量瓦(スレート) | 20kg/㎡ |
金属(ガルバリウム鋼板・トタン) | 5kg/㎡ |
自然石粒付き金属(ジンカリウム鋼板) | 7kg/㎡ |
アスファルトシングル | 9kg/㎡ |
このように、瓦屋根は他の屋根材と比較しても1㎡あたりの重量は重いです。
地震時の横揺れというのは屋根の重量が軽いほど抑えられるため、重量のある瓦は他の屋根材よりも耐震性は劣ると言えます。
ただし、現行の建築基準法における耐震基準なら、屋根の重量に合わせて梁や柱を補強することが義務づけられています。
そのため、違法建築の物件でない限り、屋根に瓦を採用していても耐震性は全く問題ありません。
重ね葺き(カバー工法)はできない
スレート屋根や金属屋根の場合、屋根材が劣化した際のメンテナンスで重ね葺き(カバー工法)を選択することができます。
しかし、瓦屋根の場合、他の屋根材のように重ね葺きを施工することができません。
瓦の上に新しい屋根材を固定できないことや、さらに重量が増してしまうため耐震強度の観点から難しいからです。
これらの理由から。メンテナンスで重ね葺きを採用できない点が瓦屋根のデメリットと言えるでしょう。
瓦屋根の修理・メンテナンスは3種類!費用相場も確認しよう!
重ね葺きが採用できない瓦屋根ですが、具体的なメンテナンス方法は以下のとおりです。
- 部分修理(部分補修)
- 葺き直し
- 葺き替え
ここからは個別のメンテナンス方法について詳しく解説します。
①部分修理(部分補修)
程度にもよりますが、瓦屋根は全体の大きな修理だけではなく「部分修理(部分補修)」で対応することができます。
- 破損した瓦の部分的な差し替え
- 棟部分のみ葺き替え(積み直しなど)
- 漆喰の塗り替え
このように不具合箇所も部分的な修理をすることができるので、メンテナンスに必要な修理費用を抑えることができます。
ただし、下地の腐食や劣化が全体に及んでいるケースは部分修理で対応できないので注意しましょう。
②葺き直し
瓦は屋根材としての耐久性が長いため、葺き直しというメンテナンスが可能です。
葺き直しは屋根材自体を再利用するメンテナンス方法で、劣化の激しい部位や不具合箇所(下地、防水シート、桟木など)は新しくします。
新しく屋根材を購入する費用や産廃費用を節約できるので、メンテナンスに必要な費用を抑えられるメリットがあります。
一方で、瓦の移動で手間がかかるため、劇的な工事費用の圧縮になりにくく割高感がある一面もあります。
③葺き替え
葺き替えとは、既存の屋根をすべて撤去した後、新しい屋根に交換する修理方法です。
葺き直しと違う点は、屋根材を再利用する葺き直しに対し、葺き替えは下地から屋根材まですべてを新しく交換する点です。
このメンテナンスは屋根材を瓦から瓦に交換することはもちろんのこと、瓦から金属屋根といった具合に屋根材を違う物に変更することも可能です。
デザインやカラーバリエーションを一新できるため、家の雰囲気を変えたい場合にもおすすめです。
まとめ
今回の記事では、日本家屋で多く採用されている「瓦屋根」について詳しく解説しました。
記事の要約は以下のとおりです。
- 瓦の耐久性は60年以上ある
- J形瓦、F形瓦、S形瓦など形が分かれている
- 粘土瓦は釉薬瓦と無釉薬瓦に分類されている
- セメント瓦は基本的に製造されていない
- 近年は樹脂繊維セメント瓦の評価が高い
- 瓦はデザイン性や断熱性、防音性に優れている
- 工事費用が若干高く、他の屋根材よりも耐震性で劣る
- 重ね葺き(カバー工法)はできない
1000度以上の高温で焼いて仕上がる瓦は紫外線や雨風にも強いので、耐候性や耐久性に優れている屋根材です。
新建材のように紫外線劣化によるメンテナンスもないので、トータルのコストを抑えたい方におすすめです。